いにしえより、文字をもたない民族はあっても、音楽をもたない民族は存在しないといわれるほど、音楽や踊りは人間が生きるために欠くことができないものでした。戦乱の世を生きた信長、秀吉、家康のような戦国武将たちもみな、普段は能や謡を愛し、舞い、謡うことに夢中になっていました。家康と秀吉が同じ舞台に立って「静之舞」を舞ったという記録も残っています。あまり歴史の表舞台には現れてこない、そんな音楽からみた江戸文化と、同時代のドイツ・バロック期をつなげてみたら?という試みとして、この企画では「バッハが江戸にやってきた」をコンセプトに、徳川家康(1543~1616)と、近代箏曲の創始者・八橋検校(1614~1685)、西洋音楽の父・J.S.バッハ(1685~1750)という、生年没年で不思議とつながる三人の偉人をパラレルにつなげてみました。
八橋検校が活躍した江戸初期は、元禄文化まっさかり。「浮世」を楽しもうという気概にあふれた元禄文化は、エネルギッシュな創造の時代でもありました。一方、遠く海を隔てたドイツでは、八橋検校が世を去るその年(1685)にドイツ音楽に新風を巻き起こした不滅の巨匠バッハが誕生します。そのバッハがバロック音楽を象徴する巨匠となったことは、クラシック・ファンのみなさまにはいうまでもないと思います。検校が伴奏楽器として影の存在だった箏の斬新な独奏曲『六段』を書いたように、バッハもまた、伴奏楽器だったチェロのために『無伴奏チェロ組曲』という傑作を書きます。その多彩なプログラムを演奏してくださる出演者は、箏の中島裕康さん、チェロの新倉瞳さん、ピアノの高橋多佳子さんという豪華なアーティストです。
プログラムでは、それぞれのソロ曲だけでなく、おなじみのあのメロディーや大河ドラマ『葵 徳川三代』の美しいテーマ音楽の、この企画ならではのオリジナル・トリオ版など、箏とチェロとピアノという意外な(?)アンサンブルもお楽しみいただけます。それに、浦久俊彦の「元禄文化は江戸のバロック?」トークや、アーティストたちも交えた気楽なステージ・トークや「大江戸クイズ大会」まで、どなたでも楽しめるコンサートです。みなさま、ぜひお越しください。アーティストとともに、会場でお待ちしております!
浦久俊彦