なんとも贅沢な顔合わせだ。文字通り〝日本を代表するオペラ歌手〞としてトップを走り続けているソプラノの幸田浩子とテノールの福井敬のふたりが、デュオ・リサイタルを開く。素晴らしい高音と抜群のコロラトゥーラ、そして何よりも聴き手を幸せな気持ちにさせる歌手である幸田浩子。イタリア・オペラからワーグナー作品まで、その輝かしい歌声でいつも私たちにオペラの喜びを伝えてくれる福井敬。日本が誇る至宝といっても過言ではないふたりだが、実はオペラの舞台での共演は数えるほど。それは、ふたりのレパートリーにあまり共通点がないからだが、だからこそ、こうしたコンサートのステージに一緒に登場してくれる機会は、たいへん貴重である。
幸田浩子はボローニャとウィーンへ留学し、ヨーロッパの劇場でキャリアを積んできた。2000年には名門ウィーン・フォルクスオーパーと専属契約。『ホフマン物語』のオランピアや『ファルスタッフ』のナンネッタなど、彼女の持ち役であるレパートリーを本場で披露している。CDは10枚以上リリースしており、またテレビやラジオ出演なども多いので、どこかで彼女の歌声を耳にした方もいるのではないだろうか。幸田の魅力は〝天使のよう〞とも評される透き通るような可憐な高音。『ジャンニ・スキッキ』のラウレッタのアリア「わたしの愛しいお父さま」は、そんな彼女の声の真髄を味わわせてくれる名曲だ。
福井敬はイタリアで研鑽を積み、イタリア声楽コンコルソミラノ大賞(第1位)など数々の賞を受賞。2015年には『ドン・カルロ』のタイトルロールで芸術選奨文部科学大臣賞に輝いた。1992年に『ラ・ボエーム』のロドルフォで二期会にデビューして以来圧倒的な存在感を示してきた福井だが、その声の魅力は、やはりイタリアもので特別な光を放つ。いちばん多く舞台で演じているという『トゥーランドット』のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」は、福井の代名詞といえる曲だ。ラストで高々と「Vincerò!(私は勝つ)」と歌い上げるところを想像すると今から胸がワクワクする。また、「オ・ソレ・ミオ」などのカンツォーネのナンバーも、テノールの歌声を堪能するのにうってつけの曲目といえる。
そして、ふたりの数少ない共通のレパートリーに、ヴェルディの名作『椿姫』がある。パリの高級娼婦ヴィオレッタとピュアで一途な青年アルフレートとの悲しくも美しい愛の物語を、幸田浩子と福井敬の声で聴くことができる幸せに、存分に浸ろうではないか。
文・室田尚子(音楽ライター)