ドイツの男声ア・カペラヴォーカルグループ「クアルトナル」。メンバーそれぞれが少年合唱団出身という彼らは、鍛え上げられた美声はもちろん、ルネサンス音楽からロマン派の作品、宗教曲にドイツ民謡、さらには世界各地のポップスまでという、幅広いレパートリーを誇る。2006年の「ドイツ国際合唱コンクール」ヴォーカル・アンサンブル部門優勝をきっかけに数々のコンクールで受賞を重ね、現在ドイツで最も注目と人気を集める存在になった彼らはそれに留まらず、世界各国の音楽祭にも招待されている。
「クアルトナル」の歌声は、輝かしくも深く包み込んでくれるようなあたたかさ、そして変幻自在に変わる色調を持っている。だからこそ幅広いレパートリーを自在に歌いこなしてしまうのであろう。彼らの伴奏を伴わない「ア・カペラ」による歌唱スタイルも、また聴き手に特別感を与えてくれるポイントの一つだ。そもそも「ア・カペラ(伊:a cappella)」というのは、現在では声楽だけで合唱や重唱を行うことやそのための楽曲を指しているが、もともとは「聖堂(礼拝堂)で」という意味を持ち、教会音楽の様式を指す言葉であった。この様式で書かれた作品は、歌詞の聴きとりやすさや自然な音楽のフォルムを特徴としており、心にまっすぐに届いてくる。今回のコンサートで彼らが歌うのは教会音楽だけではないが、言葉の持つ力、作品の純粋な魅力といったものを存分に味わって頂けることだろう。
クアルトナルが歌唱を披露するコンサートホールコロネットは、岡崎市初の音楽専用ホールとして生まれ、市民をはじめ、県外の聴衆にも愛されている場所だ。木の息吹が感じられるようなあたたかい空間、そして演奏者の音楽をより美しく届ける響きが魅力である。楽器演奏はもちろんだが、歌手の声でこそ、その音響のよさを改めて味わって頂けるのではないだろうか。音色を魅力的に際立たせるだけではなく、より艶や色彩の鮮やかさを与えるのをはじめ、発せられた言葉の輪郭を明瞭に聴き手へと届けてくれるからだ。歌手たちの表現、想いをより深く味わうことができるはず。ぜひ今年のクリスマスプレゼントとしてお出かけ頂き、最高の思い出を作ってほしい。
文:長井進之介(ピアニスト・音楽ライター)