「アンサンブル天下統一」。岡崎の地を拠点とするアンサンブルらしく、家康公にちなみ壮大な意欲を込めたネーミングである。メンバーは、岡崎市に生まれ欧州での活動歴も豊富なチェロの中木健二、読売日本交響楽団コンサートマスターを務めるヴァイオリンの長原幸太、同楽団のソロ・ヴィオラ奏者であるヴィオラの鈴木康浩の3人。2014年に岡崎市シビックセンターのレジデント・アンサンブルとして結成され、今年で9年目を迎える。6月にも〈魅惑の旋律〉をコンセプトにしたコンサートを開き、3人のゲストとともにそれぞれ編成の異なる室内楽を披露している。実力派の面々だけにテクニックは確かで表現力は豊か。個性を発揮しながら時には親密に対話し、時には情熱をぶつけあう聴きごたえのある演奏を聴かせてくれた。
そんな「アンサンブル天下統一」が12月の公演で奏でるのはJ.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》。変奏曲の歴史の中でひときわ輝きを放つ傑作中の傑作である。何しろ主題のアリアの後に続くのは30もの変奏。全体は見事な変奏の技法と数学的な秩序でまとめられていて、最後に再び主題のアリアが戻ってくる。少し大げさな言い方をすると“世界の調和と統一”が感じられるような曲なのだ。
歩みを止めることなく進化を続けている「アンサンブル天下統一」。3年前にも《ゴルトベルク変奏曲》を演奏しているが、再演となる今回はさらに磨き抜かれた弦楽三重奏の響きで彩ってくれることだろう。もともとはチェンバロの曲であるこの変奏曲を弦楽三重奏で味わう貴重な機会。楽しみにしたい。
文・小沢優子(音楽学・音楽評論)